流動点降下剤とは?
流動点降下剤の役割について解説します。。潤滑油の低温性能を向上させる重要性をお伝えします。
オイルも低温で凍結することをご存じでしょうか?ラーメンの油やラードが、料理がさめて白く固まってしまうのと同じですね。「流動点」というのは潤滑油が凍結して、ラードやバターのように固まってしまうときの温度と考えてください。この「流動点」という温度は低い方が良いとされ、たとえば-40℃でもオイルが固まらなければ、極寒の極地でも機器が作動できることになります。
流動点は英語でPour Pointと呼ばれ、これを降下-depressさせる添加剤として、Pour Point Depressant- PPDとよく呼ばれます。
自動車用の潤滑油においては厳しい低温での凍結防止が求められます。エンジンオイルや自動車用のギアオイルにおける粘度グレードのウィンターグレードではこのような低温での粘度を規定しています。
0W-40
75W-90
この0Wや75Wという数字がウィンターグレードと呼ばれる数字であり、どの程度の低温環境下を想定しているかを明示しているわけです。オイルの低温粘度規格に関する記事はこちらをご覧ください。
流動点降下剤(PPD)の種類と特徴
PPDの種類を紹介するには、すこし歴史を振り返ってみる必要がありそうです。というのも現在は潤滑油に使用されるPPDは、ほとんどPAMA(ポリアルキルメタクリレート)という化学成分の添加剤になります。
PPDが現在のPMAという化合物におちついたのは1930年代であり、以下のような経緯がありました。
1930年以前;
オイルサンプの加温や灯油分の添加で対応
1931年;
長鎖アルキル構造を持つアルキルナフタレン縮合物によるPPD効果の発見
1937年;
Rohm&Haas,現 独エボニックが長鎖アルキル側鎖を持つPAMA(PAとPMA)のPPD効果の発見
なぜこれらの化合物が、オイルの”凍結”を防ぐのでしょうか。すこしメカニズムを考えてみましょう。よくワックスの結晶を分散させる能力を持つから。と説明されますが、具体的にどういうことなのでしょうか。
オイルが冷えていく時、オイルの中では、つぎのようなことが起きています。100℃や40℃から曇点(Cloud Point)までは粘度はWaltherの実験式にしたがって増加します。油の分子が温度低下にともなって動きずらくなるので粘度が上昇します。この領域の粘度の大小はオイルの粘度指数によるところが大きいです。
図のように曇り点以下の温度域における急激な粘度上昇が今回の問題です。曇点周辺やそれ以下の温度で流動点がみられたり、BrookFiled粘度やMRVの降伏応力(YS値)が発生してきます。
曇点は言葉のとおりオイルが曇る温度で、この温度でオイルが白濁します。この温度でオイル中のワックス分が析出しはじめオイルの色が曇るのです。このワックスによって流動点をはじめとするオイルの低温特性が決まるといっても過言ではありません。なぜワックス分が問題になるのでしょうか。
オイルのワックスは、要はロウソクのろうということです。曇り点ではこのロウソクのナノレベルの大きさのかけらが発生します。流動点降下剤、PPDのリーディングカンパニーであるエボニックインダストリーズが良い動画を上げているのでご覧ください。
温度がさらに低下していくと、この細かいワックスの周りにさらにワックスが成長していきます。この効果により急速にワックスのサイズが成長することでオイルが固化してしまいます。
流動点降下剤の効果発現のメカニズムは、添加剤がワックスがナノサイズのまま分散させることにあります。キーワードは「共晶」とPPDの分子構造にです。
少し専門的な用語を使用します。「共晶」という現象があります。共晶というのは二種類以上の化学成分でできている液体が同時に結晶化する現象です。共晶が起きている時は温度が一定になったりと得意が減少が起きますが、ここでは流動点降下剤とワックスの関係を見てます。
流動点降下剤は下記の図のように背骨になる主鎖と、その横に生えている側鎖で構成されます。PAMAの例を図示します。
ポイントになるのは側鎖の炭素数です。側鎖(side chain)の炭素数は1から20で設計されることが多いのですが、この炭素数が基油の炭素数のマッチングされています。
本ブログ記事で基油の炭素数を記載しています。炭素数が大きいほど”重い”基油とよく表現されますが、結晶化温度も炭素数が大きいほど高くなります。凝固しやすくなるわけです。
側鎖は炭素数と基油の炭素数が上手くマッチングすると、基油のワックスが流動点降下剤の側鎖と「共晶」します。図のようになります。
ご理解いただけるでしょうか。ワックスが流動点降下剤の側鎖と一緒に結晶化する一方、流動点降下剤がワックスそれぞれを空間的に「分散」するのです。これを立体障害とも呼びます。
このように流動点降下剤は、極低温で基油が固まり始めても(ワックス化)、ワックスの結晶が粘度に影響を及ぼさないように、ワックスそれぞれを分離しておく効果があるのです。
流動点降下剤の選び方
使用環境や目的に応じた流動点降下剤の選択基準を解説します。選ぶ際の注意点や考慮すべき要素はどのようなものでしょうか。
選択基準
側鎖と基油の炭素数のマッチングが重要だという解説をしました。つまり流動点降下剤の選択基準は側鎖の炭素数と基油の炭素数のマッチングにあります。具体的にはどのようなことをすればいいのでしょうか。
まずは流動点降下剤の側鎖の分子量を調べてみましょう。メーカーに問い合わせるのも一つの手ですが、社外秘と言われてしまうかもしれませんね。それほど重要な情報となります。Pyrolysis GC-massなどのノウハウがあれば流動点降下剤の側鎖の分子量を調べられるでしょう。
他の方法は基油と流動点降下剤の共晶する温度を調査することです。凝固点付近では潜熱が観測されますから、流動点降下剤や基油のDSCー示 差熱分析を実施し、データベースを作ることで効果的にスクリーニングできることが知られています。
また、メーカーに問い合わせるコツとしては、流動点降下剤をつかいたい処方についての情報をインプットすることが重要でしょう。
具体的には、
-使用している基油の種類をインプットする。
-困っている処方で発生している流動点をインプットする。
-処方内の添加剤パッケージや粘度指数向上剤の種類をインプットする。
こいった情報があればPAMAサプライヤーから適切な流動点降下剤の提案を受けることができるでしょう。
流動点降下剤の効果的な使い方
- 流動点降下剤を潤滑油に添加する際の具体的な手順と注意点を説明します。
- 添加方法と注意点
流動点降下剤の作用機構について解説しましたが、注意点を強調したいです。それは入れすぎ問題です。流動点降下剤の作用機構として、基油のワックス分との結晶と立体障害を上げました。これは何を意味するのかというと、流動点降下剤は自ら「結晶化」つまり固まろうとすることで、逆に基油のワックス分を分散しているわけです。
では、この流動点降下剤を添加しすぎた場合なにが起きるかというと、流動点降下剤自身が凝固してオイルを凍結させます。
PAMA系の流動点降下剤の一般的な添加量は小数点以下と言われています。つまり0.1から0.5%。多く入れても1%未満にするというのが常識です。このレンジは流動点降下剤自体がオイルの凍結させないために重要な添加量なのです。
マッチングです。使用する処方の「結晶化」温度を把握しましょう。そうすれば最適な流動点降下剤を選択することができます。
[x2]トライボロジスト,64,3,(2019)
[x1]流動点降下剤, トライボロジスト, 52, 12 (2007) 868.
コメント