【需給解説】合成系ベースオイル(GrIII)需給の基本 ファンダメンタル入門

需給動向

ベースオイルの需給を知るための基礎

給概算
2017年において潤滑油市場規模は世界全体の概算で38KKT, エンジンオイルは約10KKTとなります。KKT=100万トンです。[1] この数字はマリンオイルやプロセス油も含んでいます。
2016年におけるベースオイル需要をグレード別に、下記に示します。単位はKBDですので、一日あたり、1KBD=159KLで、680KBD=約100KKLとなります。(密度がありますからね。比重0.8-0.9で考えましょう)GroupⅢおよびⅢ+は12%ですので、だいたい10-13KKL/day程度を占めます。一年でベースオイル需要は35KKT(KKKL),GroupⅢおよびⅢ+は4.5KKTですね。年や出典によりばらつきますが、オーダーは大体前段の潤滑油市場規模と整合しますね。

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世界の潤滑油ベースオイル別需要[2]

GrIII サプライヤーと需給

供給者
1位のS-OILと3位のSK LubricantsはGroupⅢベースオイルの生産を主体としています。この両者でGroupⅢ需要の8割の生産能力を占めています。米国勢はGroupⅡの生産を主としているので、カタールのShell XHVIとよばれるGTL(Gass to Liquid)というGroupⅢ+ベースオイルとあわせると、中東および韓国勢がGroupⅢの供給力のほとんどを担っている状態です。国内では出光興産が30KT程度製造しています。

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2016年製油所生産能力世界top10[3]

需給バランス
GrⅢ/Ⅲ+の地域別需給バランスは次のとおりです。日米欧はローカルの生産者が少なく、輸入国となっており、中東と韓国に依存しています。中国も同様の依存体質です。私見ですが、今後は地政学要因により、再生基油ーRRBO(Re-Refined Base Oil)の必要性が、SDGsの文脈以外でも高まることを予想しています。

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GrⅢ/Ⅲ+の地域別需給バランス[4]

需給の長期的見通し
さて、今後の需給の見通しはどうなっていくでしょうか。コロナ中でイレギュラーがあったものの、基本的にどのグレードにおいても余剰状態となります。GroupⅠは需要側で高性能ベースオイルへの転換が進むことにより余剰感が強まるといわれており、Ⅱ、Ⅲは供給サイドの能力増強により、だぶつく見通しです。そのためGroupⅠでは生産能力の削減や、それ以外のグレードでは設備稼働率の低減を招くだろうといわれています。今後本Noteではベースオイルの需給状況を逐次アップデートしますが、ベースオイルのコモディティ感は強く、Ⅲが高性能、プレミアム。という価格面での位置づけは揺らいでいくでしょう。

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APIグループ別世界供給予測[3]
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APIグループ別世界需要予測[3]

2024年 最新のベースオイル需給見通し

ここまではGrIIIをめぐる長期的トレンドでした。2017年くらいまでの統計データなのでコロナを経た現在の状況を鑑みると少し修正が必要です。足元の2024年の需給を確認してみましょう。

ベースオイル市場のドライバーとリスクははどのようなものになるでしょうか。
アジアにおけるサポート要因となるのは、インド経済の急成長と中国経済のリカバリーでしょう。2017年時点ではインド経済は有望であるとはいえ、現在ほど明瞭に成長セクターと位置付けられてはいませんでした。中国はコロナ以降の経済の暗転から、経済刺激策を投入を決定しました。このアジアの二大国の経済成長がベースオイル市況を強力にサポートしています。
米国においても、経済刺激策や、インフレの落ち着きとともにFRBが利下げに転じれば、潤滑油需要のサポート要因となるでしょう。強いUSDもベースオイルの輸入においては有利となります。

リスク要因はどのようなものでしょうか。マクロ経済的にはEUおよび米国のPMIが減速しており不景気入りが懸念されています。ドイツをはじめEUはすでに、かなり厳しいとされています。米国も利下げや景気刺激策などが機能しなければ不景気入りのリスクがあり、これらはベースオイル需要を押し下げるでしょう。ファンダメンタルズにおいては、GrIIIやGrIIのセグメントにおいて低粘度基油の製造キャパシティが急速に増強されている点がリスク要因とされています。

アジアに絞って、参考までにGrIIIと鉱油の価格差-price spread-を考えてみましょう。中国はここまで経済の低迷と、供給過剰によりGrIIが特にだぶついています。一方、2022-2023における日本のGrI生産能力の削減にもみられるとおり、GrIの製造キャパシティは絞られています。そのためGrIIとGrIの価格差、つまりGrIIのGrIに対する価格プレミアムに低下圧力がかかっています。

GrIIIとGrIIの価格差はどうでしょうか。GrIIIのGrIIに対する価格プレミアムを考えます。GrIIIに関しては中華系サプライヤーの製造能力増強により市況がだぶついています。中国経済自体も頼りないこともあり、東アジアにおけるGrIIIのGrIIに対する価格プレミアムは低減しています。一方でインド、中東地域の需要は旺盛ですが、東アジア発の供給能力のだぶつきを引き締められるほどではなく、価格プレミアムは低減方向です。

さて、このとおり足元のマクロ経済情勢を鑑みても、2017年から予測されていたGrIIIからGrIIと供給能力がだぶつくという長期トレンドに変化はないといえるでしょう。むしろ中国経済の低迷という要因により、高精製度なベースオイルであるほどお買い得であり、潤滑油製造者にとっては高性能潤滑油の拡販に有利な状況といえるでしょう。

[1]Thomas R. Lynch ; Process Chemistry of Lubricant Base Stocks, CRC Press, 2008, 217
[2]LUBRICANTS INDUSTRY FACTBOOK 2016 2017, LUBES ‘N’ GREASES, 40

[3]LUBRICANTS INDUSTRY FACTBOOK 2016 2017, LUBES ‘N’ GREASES, 46
[4]KLINE GLOBALLUBRICANTBASESTOCKS:MarketAnalysisandOpportunities(2017)

[5] KLINE BASEOIL Market Report

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