ベースオイルの分類
潤滑油に使用される原料のうち、割合にしてエンジンオイルでは8割以上、場合によっては9割以上の比率を、ベースオイルが占めています。
ベースオイルはAPI(American Petroleum Institute)によって5種類に分類されています。GroupⅠのベースオイル、とかGrⅠベースオイルとか記載されます。
GrⅠは溶剤精製法と呼ばれる手法により、原油などから精製される基油になります。ガソリンなどの燃料の副産物としても知られます。
GrⅡは原油由来のVGOを原料とし、水素化精製法で精製して得られます。
GrⅢはGrⅡのプロセスに加えて水素化分解を実施した高性能基油となります。
GrⅣは化学合成により得られる基油のうち、特にポリアルファオレフィン(Polyalfaolefin ; PAO)が該当します。
GrⅤはⅠからⅣに該当しない、他のすべての基油とされており、エステルなどが分類されます。
鉱油か合成油か
潤滑油の製品紹介で鉱油か合成油かという表示があります。いいかえると、ミネラルオイル(鉱油)かシンセティック(合成油)と記載されることもあります。
この鉱油系か合成油系かというカテゴリーは主にどのGrのベースオイルが使用されているかを意味しています。そしてこのマーケティングクレームにおいてはっきりしたルールはありません。
傾向としてはGrⅠ、Ⅱを鉱油として、それ以降を合成油とするマーケターもいます。
鉱物油とは?
鉱油は安いベースオイルと言われます。GrⅢの供給キャパシティの飛躍的向上とGrⅠの製造能力の削減により、潤滑油用途に使用されるベースオイルのシェアはダイナミックに変化しました。今後”鉱油”といっても、GroupⅢ-合成油にくらべて、安く入手しやすいベースオイルとは限らないという世界になるかもしれません。
GrⅢのシェアが拡大するにつれて、鉱油の重要性は低下し、もうGrⅠやGrⅡについて勉強する必要はないのでしょうか。そんなことはありません。諸外国にくらべ高性能なオイルが普及している日本のような先進国においても、”fighting grade”とよばれる汎用のオイルではGrⅠやGrⅡ(日本では少ないかもしれませんが)が広く使われています。
この章では、ひとくちに”鉱油”と呼ばれ、低品質と解説されがちな材料について、その分類、組成、分析方法を詳細に解説します。
粘度グレードとベースオイルの名称
ベースオイルは100℉ SUS粘度で分類されることがあります。ブランド名につづいて数字を記載することで例として、
Americas Core 600
https://www.exxonmobil.com/en/basestocks/products/group-i-base-stocks
があげられます。
他にも、
150SN, 150BS, 600N,,,
というように、100℉ SUS粘度(SSU)の後に精製方法がつづくこともあります。100℉は37.7℃くらいなので、ほぼ40℃の動粘度で分類されているわけです。
SNはソルベントニュートラル, BSはブライトストック、Nはニュートラルです。SN,BSはGrⅠ,NはGrⅡです。
一方、GrⅢはというと、粘度の部分が100℃動粘度,cstで表示されることがおおく、Yubase4といったように表記されます。
以下に簡単にSUS粘度(SSU)と動粘度の相関を示しておきます。
100 SSU ~ 20.6 cSt
150 SSU ~ 31.9 cSt
600 SSU ~ 129 cSt
鉱油の化学組成
ベースオイルの精製過程では、原油からパラフィンおよびナフテン炭化水素が多い化学組成となりますが、微量の芳香族炭化水素などが含まれます。
軽質なベースオイルからブライトストックまでで大きく変動しますが、おおむね、次のようにまとめられます。[1]
炭素数; C18-C50
分子量; 300-700
常圧換算沸点 400-700℃
もう少し、各成分を細かく見てみましょう。
いわゆる、全飽和成分にパラフィン系、ナフテン系炭化水素類が含まれます。[2]
モデル的に示したのが次の例です。
パラフィン系とナフテン系とは簡単に以下のように示すことができます。[3]
全芳香族成分も次に例示します。
さて、ざっくりですが、原料である潤滑油留分では芳香族成分が20%程度ふくまれますが、それを溶剤抽出油とすることで、芳香族成分は7-8%まで減少します。脱ろう精製油では9-10%程度です。
原料油である潤滑油留分の飽和成分中ではパラフィン分が20%ですが、脱ろう精製油では16%程度となります。単環ナフテンから三環ナフテンが75%程度をしめしますから、飽和成分が脱ろう精製油の90%程度となります。
全飽和分と全芳香族分で、脱ろう精製油でほとんどを占めていますね。
ベースオイルの分析方法
環分析
さて、これらの成分を分析していく方法を紹介します。一般に環分析と呼ばれます。環分析による構造基の炭素数分布の表示法はつぎのとおりです。
%CA;芳香族環の炭素数が、全炭素数に占める割合
%CN;ナフテン環の炭素数が、全炭素数に占める割合
%CR;芳香族環とナフテン環の炭素数が、全炭素数に占める割合
%CP;パラフィン炭素数が、全炭素数に占める割合
RA;平均分子中に存在する芳香族環の環数
RN;平均分子中に存在するナフテン環の環数
RT;平均分子中に存在する芳香族環とナフテン環の環数の和
分かりにくいと思うので、例を示します。[4]
環分析法として代表的な例としてn-d-M法があります。これは、n;屈折率、d;比重、M;分子量から上記の炭素数分布や環数を求めます。
他には
液体クロマトグラフィーで測定する方法を知られています。これはベースオイルを飽和成分、芳香族成分、レジン分に分ける方法です。
基油の精製度と成分の関係
溶剤精製後のベースオイルでは、パラフィン分(%CP)が60%ていど、%CNが25-30%程度、%CAが3-6%程度と報告されています。軽質から重質、ブライトストックと粘度別にみると、基本的には分子量が380から700程度へと増加していきます。[5]
さて、水素化分解をほどこすとどうなるでしょうか。文献[6]では二段処理を行った150Nと500Nを例示しているが、硫黄分、芳香族分がほとんど0%になり、パラフィン、ナフテン炭化水素のみに近い組成となっています。
潤滑油の性能におよぼす影響
前述のように全飽和分がベースオイルの成分の多くを示すことから、全飽和分を構成するパラフィン系とナフテン系を比較してみましょう。一般にパラフィン分が増えると、密度が小さく、粘度指数、引火点、熱安定性が良好になります。一方で、流動点や妖怪性、炭化傾向はナフテン系の方が有利というのが通説ではないでしょうか。これらの特性を用いて、ナフテン系は冷凍機油や極地用作動油などに使用されます。
さて、GroupⅠ、つまり溶剤抽出後のベースオイルですと芳香族成分が若干量含まれているわけですが、これは潤滑油の性能にどのような影響を及ぼすでしょうか。よく言及されるのは酸化安定性といわれる、オイルの寿命に関係するパラメーターでしょう。芳香族成分は飽和分に比して酸化反応をうけやすく、それによりGroupⅠは芳香族成分により添加剤の添加効果が劣ります。これが、「鉱油がよくない」と言われるゆえんでしょう。
一方で、この成分は”つなぎ”の役割を果たしますので、添加剤の溶解性がよくなります。精製度がたかくなるほど、添加剤が溶解しにくくなること、特にポリアルキルメタクリレートなどの粘度指数向上剤などの増粘効果が変化することは覚えておきましょう。
最も普及している合成基油;GroupⅢとGroupⅢ+
さて本ブログではベースオイルの基本的な知識を紹介してきました。ベースオイルはAPIにより5個に分類されます。
特に鉱油といわれる、GroupⅠとⅡについては下の記事で詳細に解説しましたので、今回はGroupⅢに分類されるベースオイルについて解説します。このグレードのベールオイルを使用するオイルは、ベースオイルの部分が100%、GroupⅢや、それ以降のグレード(ⅣやⅤ)で処方される場合は「全合成」と呼ばれますが、GroupⅠやGroupⅡなどの「鉱油」と組み合わせて使用される場合は「部分合成」と呼ばれます。
GroupⅢというのは、水素化分解基油といわれるベースオイルですが、製造プロセスで定義されるというよりは、APIの分類で低硫黄、高飽和分で粘度指数が120以上あれば、このカテゴリーに分類されます。
Sulfur‘(硫黄分)やNitrogen(窒素分)といった項目は、いわゆる硫黄分、窒素分のことです。ベースオイル由来のスラッジ生成量や酸化安定性に影響しますが、GroupⅢの場合は、これらの値が検出限界以下まで精製されており、オイルの酸化安定性に寄与するといわれる所以です。
パラフィン分(Praffin,%)のおかげで粘度指数が高くなっていますが、この高い粘度指数により、VII(粘度指数向上剤)への依存度をへらしつつ、いわゆる”マルチグレード”オイルを処方できる可能性が広がります。
他にもGroupⅢとよばれるカテゴリーのなかにはⅢ+とよばれるカテゴリーがあり、蒸発特性(NOACK揮発度)や流動点などの低温特性が特に優れるものはポリアルファオレフィンと同等の性能を有します。
ベースオイルの用途
エンジンオイルでは世界的トレンドとしてGrⅡの使用が増加しています。特に10W-や15W-といったグレードではGrIIが普及しています。従来GrⅠが主流でしたが、世界的な製油所の再編や需要の変化によりⅠからⅡへのシフトが起きています。0W-や5W-といった粘度グレードでは優れた低温特性が要求されることからGrⅢやGrⅢ+の使用が増加しています。
さて、トランスミッションオイルや作動油、タービン油といった駆動系や工業用のオイルにもGrⅢが普及しています。これらの背景には近年GrⅢの供給力が増強されたことがあります。価格的競争力が上昇したことにより幅広いアプリケーションに高性能基油が普及しています。[x2]
粘度別では2cst,3cstのグレードはATFやプロセス油に使用される傾向があり、4cst,6cstはガソリンエンジンオイル、8cstはディーゼルエンジンオイルという用途別のすみわけがみられます。
GroupⅢベースオイルの特性を活かそうとした場合、これらの材料はどのようなベースオイルに使用されるでしょうか。この章では用途について解説します。
エンジンオイル
エンジンオイルの代表的規格である、ILSAC,API,ACEAといった規格においては、厳しいスラッジ制御、燃費目標、排ガス浄化装置への適合性、エタノール系燃料を混合した場合のエンジン保護などが求められます。さらにこうした規格には0W-グレードが含まれ、きびしい低温特性も求めらえることから、GroupⅢベースオイルの需要を後押ししています。
オートマチックトランスミッションフルード(ATF)
ATFといえば、多段AT,DCT,CVTといった様々変速方式に対して適合するフルードが、それぞれ設計されています。どの場合も良好な酸化安定性や高粘度指数、低粘度化といったことが求められますが、燃費改善や、fill-for-lifeといったオイルの無交換を前提とした設計仕様により、GroupⅢベースオイルが使用されます。
ギアオイル
ギアオイルはどうでしょうか。ギアオイルの規格はGLやSAE J306などで規定されます。ATF同様、省燃費化、交換頻度の低減もしくは無交換を要求されます。エンジンが高出力化していますので、使用環境の温度も高くなる傾向にあり、良好な酸化安定性が求められます。
工業用潤滑油
工業用潤滑油は鉱油使用量が比較的多いようです。コンプレッサーオイルや冷凍機油ではGroupⅢの使用率が高い傾向にあります。工業用潤滑油はもともと添加剤の添加量が、自動車に比して低い傾向にあります。そのためベースオイルの粘度指数が、潤滑油の製品の粘度指数に大きく影響しますから、GroupⅢベースオイルを用いることで機器の効率を上げることが可能になります。作動油では低温側での始動性や粘性抵抗、高温側でのポンプによるフルードの吐出容量を改善するために、GroupⅢを配合した高粘度指数作動油が活躍しています。
参考文献とリソース
さらなる学習のためのリンクと書籍
[1]JXTG Technical Review・第59巻 第3号 潤滑油基油の品質と世界動向
[x2]トライボロジスト 第 64 巻 第 3 号 潤滑油基油の近年の需給動向[1]p28, 潤滑油の基礎と応用
[2]p29, 潤滑油の基礎と応用
[3]潤滑油 環境ワールドhttps://www.jalos.jp/jalos/qa/articles/002-L004.htm
[4]p31, 潤滑油の基礎と応用
[5]p39,新版潤滑油の実用性能、幸書房
[6]p43, 関敏夫、三菱石油技術資料 No71
[7]p488,潤滑,30,7[y1]Thomas R. Lynch ; Process Chemistry of Lubricant Base Stocks, CRC Press, 2008, 217
[y2]LUBRICANTS INDUSTRY FACTBOOK 2016 2017, LUBES ‘N’ GREASES, 40
[y3]KLINE GLOBALLUBRICANTBASESTOCKS:MarketAnalysisandOpportunities(2017)
[y4]LUBRICANTS INDUSTRY FACTBOOK 2016 2017, LUBES ‘N’ GREASES, 46
[y5] KLINE BASEOIL Market Report
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